長い1週間を経て、47の国と地域から参加した220名を超えるスケーターたちが、たったの男女8名ずつに絞られて、世界チャンピオンの座をかけて決勝に挑みました。
スケートボード競技での日本人の快進撃が止まりません。世界選手権で白井空良（ムラサキスポーツ）が初優勝、根附海龍（avex）が銀メダル、東京オリンピック金メダルの堀米雄斗（MIXI）が銅メダルを獲得し、なんと世界中の強豪がひしめく男子の表彰台を日本人が独占しました。女子も織田夢海（サンリオ）が初優勝し、世界ランキング1位の西矢椛（サンリオ）が3位に入り、なんと日本人選手がメダルを5個獲得する脅威的な結果となりました。
この1週間を通してスケートボード界における日本人選手の勢いが改めて話題となりましたが、それが顕著に表れたのが女子でした。女子ファイナリストは8人のうち5人が日本人選手でしたが、誰もが運が良かったわけではありませんでした。決勝進出の可能性が期待されていた伊藤美優（JOCKS）はわずか4ポイント未満の得点差で惜しくもその座を逃していました。
今回の世界選手権では男女とも過去最高と言える競技水準の争いが繰り広げられました。準決勝1位通過のクロエ・コベルは、今回のワールドスケートボードツアー（WST）で最も成長した選手です。この決勝では、彼女は不運にもプッシュでつまずき、ベストトリックでは15点以上必要となるなど、ランセクションでは苦戦を強いられたが、それでもハバセクションにて「フロントサイド50-50グラインド to キックフリップアウト」、そして9段のステアでは「ヒールフリップ」と「スイッチキックフリップ」という3つの圧倒的なトリックを成功させました。今回は残念な結果とはなりましたが、今後の活躍に大いに期待したいと思います。
中国のチェンシー・ツイはこの1週間で12回も成功させた「バックサイド・リップスライド」を両方のランでミス、そのため5回のベストトリックは全力を尽くす必要があったが、残念ながら最後の1本しか成功させることができませんでした。今大会の経験は彼女にとって今後につながる大きな一歩となったことでしょう。会場は大きな拍手で彼女の健闘をたたえました。
中山楓奈（ムラサキスポーツ）は、小さなハバレッジで彼女が得意とする「フロントサイド・クルックド・グラインド」をめずらしく失敗し、ベストトリックでは「バックサイド・オーバークルックド・グラインド」をチョイスしたものの、今大会の競技レベルが高すぎたため上位に入ることは叶いませんでした。
赤間凛音も大きなハバセクションで「ハリケーングラインド」と「バーレーグラインド」を一発で決める完璧なランを見せましたが、フリップ系のトリックを取り入れていなかったため、以前のローマ大会を制した先駆的な「フロントサイド・フィーブルグラインド」から「フロントサイド180アウト」にトライしたものの、最後の3回のトライではメイクすることができず表彰台を逃しました。
赤間凛音と同様に、吉沢恋（ACT sb store）もベストトリックでは80点以上をマークする見事なトリックを3本決めたものの、彼女のランの得点はペースセッターとなった選手より13点も低く、今回のレベルの戦いではその点差はほとんど縮めることはできませんでした。
2022年の世界選手権と同様に今回銅メダルとなった東京五輪金メダリストの西矢椛（サンリオ）は、ラン1本目で「サスキーグラインド」と「クルックド・グラインド・ノーリーヒールフリップ」を小さなステアのレッジで成功させて80点台のスコアをマークしましたが、ベストトリックにて9段のステアでの「ヒールフリップ」にラスト3本でトライするもメイクできず、スコアを更新することはできませんでした。
銀メダルを獲得したのは2022年のチャンピオンであるライッサ・レアウ（ブラジル）で、女子カテゴリーにおいて、この時点で今大会初の90点オーバーを「キックフリップ・バックサイド・リップスライド」で決めてマークし、ベストトリックの2本目を終えた時点で首位に立ちました。しかし、さらにスコアを伸ばすため戦略的に挑戦した「キックフリップ・フロントサイド・ブラントスライド」に2度トライするも決めることができませんでした。
そして、勝利は今大会最高得点94.80を記録する「キックフリップ・フロントサイド・フィーブルグラインド」をメイクした織田夢海に与えられ、新たな世界チャンピオンが誕生しました。
決勝へ進出した日本人の男子選手の人数は、女子のように過半数を超えることはできなかったものの、それでも半数を占めました。非常に対象的だったのは強豪アメリカから3名が決勝へ進出しましたが、同じく強豪のブラジルからは1人も残ることができなかったことです。ブレイデン・ホーバン（アメリカ）とアレックス・ミドラー（アメリカ）は共にワールドスケートボードツアーでは初の決勝進出を果たし、前回大会から顔ぶれがガラッと変わりました。
ブレイデン・ホーバン（アメリカ）はランセクションが終了した時点でフルランをメイクすることができず、トップ争いは外れてしまいました。しかし、ギリギリのところでライディングをコントロールする彼のワイルドさは観客を魅了しました。彼の「ギャップ to バックサイド・ノーズブラントスライド」と「ギャップオーバー・キックフリップ to フロントサイド50-50グラインド」は両方とも90点を超え、人々の記憶に長く残ることでしょう。
準決勝1位通過した王者ナイジャ・ヒューストン（アメリカ）は、自身のスコアのベースを作るために必要となる2本目のランの最初のトリックで転倒し、ベストトリックを前に事実上表彰台争いから外れてしまいましたが、それでも「キャバレリアル・バックサイド・ノーズブラントスライド」と「ノーリーヒールフリップ・ノーズブラントスライド」の2本で90点代のスコアを叩き出しました。
日本の若き才能、小野寺吟雲（シュガーアンドスパイス）が見せるトリックの難易度は非常に高い反面、ミスの危険性も高いことが今回も証明されることとなりました。ベストトリックでは「ダブルキックフリップ・フロントサイドボードスライド」と「フロントサイド・ブラントキックフリップ to フェイキー」を成功した最初の2本しかカウントされず、その後トライしたもののメイクできずに終わった超高難易度の「キックフリップ・フロントサイド・ブラントスライド・ビッグスピンアウト」をもし決めていたら、表彰台は違うメンツになっていたかもしれません。
アレックス・ミドラー（アメリカ）は自身初のワールドスケートボードツアーの決勝にてランセクションでは80点台を出し、「ギャップ to バックサイド・ノーズブラントスライド」とハンドレールでの「バックサイド270オーリー to ノーズブラントスライド」をベストトリックで成功させ見事5位になりました。
コルダノ・ラッセル（カナダ）は準決勝の方が決勝より良い演技を見せていましたが、それでも決勝では94点超えの「フェイキーヒールフリップ・バックサイド・リップスライド」と「フェイキーフロントサイド・ビッグスピン・フロントサイド・ボードスライド」を決め、自身のワールドスケートボードツアー史上最高位となる4位に入賞しました。
表彰台は日本勢が独占！ 堀米雄斗（MIXI）は95.77点でワールドスケートボードツアー史上最高得点のトリックとなる「バックサイド270ノーリーノーズスライド to バックサイド270アウト（通称 ユートルネード）」を含むベストトリックを5本中3本成功させて、合計273.28点を獲得して銅メダルを獲得しました。
急激な成長を遂げている根附海龍（avex）は決勝最高得点のランで86.97点をマークすると、今まで決められたことのない新たなトリック「ヒールフリップ・バックサイド・ノーズブラントスライド」を決めて銀メダルを獲得しました。
完全優勝で新たな世界チャンピオンとなった白井空良（ムラサキスポーツ）は、ベストトリックの2本目ですでに無敵の強さを見せ、「アーリーウープ・フロントサイド180オーリー to フェイキー5-0グラインドフロントサイド180アウト」という、これまた世界のどこにも例を見ない大技で大会全体を締めくくりました。
私たちは東京で魔法を目の当たりにしました。ワールドスケートボードツアーはまだまだ続きます。次は2024年3月にドバイでお会いしましょう！
◎男子ストリート決勝 結果
1. 白井空良（日本）276.81
2. 根附海龍（日本）273.60
3. 堀米雄斗（日本）273.28
4. コルダノ・ラッセル（カナダ）266.31
5. アレックス・ミドラー（アメリカ）262.93
6. 小野寺吟雲（日本）262.03
7. ナイジャ・ヒューストン（アメリカ）251.38
8. ブレイデン・ホーバン（アメリカ）231.48
◎女子ストリート決勝 結果
1. 織田夢海（日本）265.75
2. ライッサ・レアウ（ブラジル）261.90
3. 西矢椛（日本）245.76
4. クロエ・コベル（オーストラリア）245.11
5. 吉沢恋（日本）242.45
6. 赤間凛音（日本）241.95
7. 中山楓奈（日本）239.61
8. チェンシー・ツイ（中国）138.43